財産目録に記載された相続財産の時価で判定するリスク
相続業務の一環で亡くなった方(以下「被相続人」)の財産目録を作成することがあります。
財産目録とは、被相続人の各財産・債務の時価を記載した総括表で、その財産目録をベースに相続人間で遺産分割協議をして、遺産分割協議書を作成します。
財産目録には、純資産(総資産の時価合計△総債務の時価合計)の時価合計が記載されています。
そして、その財産目録に記載された純資産の時価合計が遺産に係る基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下のため相続税の心配はないと考える人が一定数います。
【例題1】
⑴相続人の数 3人
⑵資産 不動産の時価3,000万円 現預金の時価2,000万円
⑶債務 葬式費用△300万円
⑷相続税の有無の判定
➀不動産の時価3,000万円+現預金の時価2,000万円△葬式費用300万円=4,700万円
②遺産に係る基礎控除額 3,000万円+600万円×3人=4,800万円
➂➀≦② ∴相続税が発生しないため、相続税の申告は不要と考える人が多い
ただ、この考え方はリスクがあり、申告期限内に申告できず税制上の有利な規定が受けれないリスク、税務調査で申告もれと指摘をされるリスクなどが潜んでいます。
申告もれと指摘される理由➀-相続手続きが不要な財産の不記載-
財産目録や遺産分割協議書に記載される財産は、主に「相続手続きが必要」な財産となります。
「相続手続き」が必要な財産の代表といえば、
⑴不動産(土地、建物)
⑵預金(普通預金・定期預金など)
⑶上場株式、投資信託、出資金、国債等の金融商品
⑷満期保険金(例:JA建物更正共済契約)
などとなります。
これらは相続手続きが必要な財産となり、相続手続の際にこれらの財産が具体的に記載された遺産分割協議書が必要となります。
つまり、遺産分割協議書のベースとなる財産目録にも、これらの「相続手続きが必要」な財産が具体的に記載されることになります。
いっぽうで、相続財産には「相続手続きが不要」な財産も含まれます。
例えば、
・未収入金(介護保険料、後期高齢者医療保険料、損害保険料の戻り金など)
・構築物(アスファルト敷駐車場のアスファルトなど)
・家庭用財産(テレビ、本棚、机、椅子、ベットなど日常の生活で使用するもの)
・庭園設備(岩、灯籠など)
など。
これらの財産は遺産分割協議書や財産目録に具体的に記載されていないことが多いです。
しかし、相続税が発生の有無を確認する場合には、「相続手続きが不要」な財産も相続財産に含めることになります。
【例題2】
⑴相続人の数 3人
⑵資産 不動産の時価3,000万円 現預金の時価2,000万円
その他の財産(家庭用財産や未収入金など)の時価200万円
⑶債務 葬式費用△300万円
⑷相続税の有無の判定
➀不動産の時価3,000万円+現預金の時価2,000万円+その他の財産の時価200万円
△葬式費用300万円=4,900万円
②遺産に係る基礎控除額 3,000万円+600万円×3人=4,800万円
➂➀>② ∴相続税が発生するため、相続税の申告は必要
申告もれと指摘される理由②-土地の時価-
遺産分割協議書のベースとなる財産目録に記載する土地の金額は、その不動産の「時価」で記載することになります。
ただ、土地の「時価」は、一つの土地につき複数の「時価」があり、➀実勢価格、②公示価格、➂路線価、➃固定資産税評価額などがあります。
財産目録を作成する場合には、どの時価を使用しても問題ございません。
いっぽうで、相続税の発生の有無を判断する場合、
つまり、相続財産の時価合計が遺産に係る基礎控除額を超えるかどうかを判定するうえでの不動産の時価算定は、税務上のルールに従う必要があります。
例えば、その土地が市街地に所在する場合には、路線価を使用して時価算定する可能性が高くなり、その土地が田舎に所在する場合には、固定資産税評価額に一定の倍数を乗じて時価算定する可能性が高くなります。
このように、財産目録に記載した土地の時価と税務上のルールに従って算定した土地の時価に乖離が生じ、これが申告もれの原因となります。
【例題2】
⑴相続人の数 3人
⑵資産 不動産の財産目録上の時価3,000万円(税務上の時価3,500万円)
現預金の時価2,000万円
⑶債務 葬式費用△300万円
⑷相続税の有無の判定
➀不動産の時価3,500万円+現預金の時価2,000万円△葬式費用300万円=5,200万円
②遺産に係る基礎控除額 3,000万円+600万円×3人=4,800万円
➂➀>② ∴相続税が発生するため、相続税の申告は必要
リスクと対策
相続税については、申告期限内(相続開始の日以後10か月以内)に申告することで税制上有利な規定(配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例など)を適用して納める相続税を減らすことができます。
ただ、本来、相続税が発生し、相続税の申告が必要だったのに、誤って相続税が発生しないと判断。その後、相続税が発生することがわかり申告期限後に相続税の申告をした場合には、税制上有利な規定を適用できず、余計な相続税を支払うことになります。
また、税務調査で申告もれを指摘された場合には、無申告加算税や延滞税、(場合によっては重加算税)などの罰金を更に支払うことになります。
対策としては2点。
⑴財産目録には、主に「相続手続きが必要」な財産に加えて「相続手続きが不要」な財産を記載すること。未収入金、構築物、家庭用財産、庭園設備などの細かい財産も財産目録も全て記載することです。
⑵財産目録に記載する相続財産の金額は「時価」となりますが、「時価」については適正なものであればどの「時価」を使用しても問題ございません。つまり、税務上の「時価」を財産目録に記載しても問題ないため、財産目録に記載する時価は税務上の時価を記載することです。
上記2点の対策を実施すれば、財産目録に記載の相続財産の純資産(総資産の時価合計△総債務の時価合計)の時価総計で、相続税の発生の有無を判断することが可能となります。
当事務所のご案内
当事務所は資産税(相続税、贈与税、譲渡所得税、不動産評価、自社株評価など)に強い長岡京市の税理士兼行政書士です。
税務上の目線で財産目録や遺産分割協議書の作成も可能です。
また、土地評価も個別に依頼を頂くことが多いです。(土地の評価サービス)
リモートで全国のご相談も承っておりますので、お困りの方はぜひお問い合わせ下さい。(問い合わせはこちら)
-編集後記-
本日は午前中は相続業務。
午後から税務顧問で京都の和束町を訪問します。
にお あつし
こんにちは!
マラソン・バイク・フルートをこよなく愛する
京都府長岡京市在住の税理士の丹尾 淳史(にお あつし)です。
今回は、「財産目録の時価総額が遺産に係る基礎控除以下なのに相続税がかかる理由」について整理しました。